koino.info 恋する あなたへ



君と別れてから、街の音が少し遠くなった。
駅のアナウンスも、交差点の信号音も、すれ違う人たちの笑い声も、まるで薄いガラスの向こうから聞こえてくる。
私はいつも上の空だった。
本屋に入っても、同じページを何度もめくる。
コーヒーを頼んでも、砂糖を入れたことを忘れる。
そして街角でふと、君によく似た後ろ姿を見つけては、立ち止まる。
もちろん、君ではない。
分かっている。
それでも心だけが、少し遅れて追いかけていく。
ある夜、古いレコード店の前を通った。
店の奥から、かすかな音楽が流れている。
子守歌だった。
ララバイ。
なぜだか、その言葉を聞いた瞬間、君と過ごした最後の夜を思い出した。
「じゃあね」
君はそう言って笑った。
さよならではなく、じゃあね。
また会うような言葉だった。
私はその言葉を信じたまま、今日まで歩いてきたのかもしれない。
夜空を見上げる。
雲の切れ間に、ぼんやりと月が浮かんでいた。
街の灯りに負けそうな、小さな月。
私は少し笑った。
をすると、人はいつも上の空になる。
そして眠れない夜には、心のどこかで誰かが静かに歌っている。
ララバイ。
遠い記憶を眠らせるための歌。
それとも、もう一度夢を見るための歌なのだろうか。
私は歩き出した。
今夜も少し上の空のまま。
けれど、不思議とそれでいいような気がしていた。



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