まるで


JOYの不思議 あるふぁファイル
東京という街は迷路だ。
地下鉄の出口をひとつ間違えただけで、見たことのない路地へ出る。
神楽坂の石畳を歩いていたはずなのに、気がつけば古い喫茶店の前に立ち、さらに角を曲がれば、小さな花屋や猫のいる階段に出会う。
だから私は、この街を「東京ラビリンス」と呼んでいる。
その夜も、私は迷っていた。
待ち合わせの場所へ向かう途中だった。
スマートフォンの地図はあるのに、なぜか遠回りばかりしてしまう。
けれど不思議と焦りはなかった。
迷うことが、この街の楽しみでもあるからだ。
やがて高層ビルの谷間に小さな広場を見つけた。
ベンチに座る彼女は夜空を見上げていた。
「遅かったね」
そう言って笑う。
「迷路に捕まってた」
私が答えると、彼女はうなずいた。
「東京って、そういう街だもの」
見上げると、ビルの隙間に小さな星が見えた。
何百万もの人が暮らす巨大な都市なのに、その瞬間だけは宇宙の片隅にいるような気がした。
「ねえ」
彼女が言った。
「私たちも惑星みたいだと思わない?」
「惑星?」
「うん。遠くを回りながら、たまたま同じ場所ですれ違うの」
その言葉を聞いて、私は少し黙った。
東京の迷路の中で出会う人は多い。
けれど何度も巡り合える人は少ない。
ビルの窓の灯りが星座のように輝いていた。
私たちはしばらく何も話さず、その光を見ていた。
迷路のような街の夜。
その片隅で、二つの小さな惑星が、ほんの少しだけ軌道を重ねていた。

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